「鎌高座談会」 Vol. 7

vol.7「屋根裏に住んで毎日映画4本観ていた巴里時代。命とパスポートがあれば、明日なんとかなる」

 

 

モノクロ仏映画のような屋根裏に住んだワケ

 

I  パリに行っていた時、具体的に何をしていたんですか。

 

鈴木  あのね。3カ月以内なら、日本のパスポートって素晴らしくて何もしなくてもいられるんですよ。ただそれ以上3カ月以上いようとすると滞在許可証が必要で、何もしていない観光の人っていうのはそんなに長くいられない。
3カ月にいっぺん帰ってるって人もいたんだけど、私は滞在許可証を取るために語学学校に行くんです。通ってます。で、今度それを日本にいて許可証をもらうのが大変だったの。今ではそれを代理で取ってくれるところがあるんだけど、その時もあったかもしれないんだけど、自分の力でやったね。片仮名のフランス語書いといて、電話かけて、向こうから何言われているかわからないから一回切って、こういうふうに言ってたなと調べて、っていうふうにして。
 
ようやく語学学校に行っていたんだけど、その前にモード学園を出て最初にある意味大手のデザイン職で入ったんですよ。3年間はやろうと思って、パリに行きたいってわかってるからとにかくお金を貯めたの。その時は実家でお金を貯めてくの。コーヒー1杯も飲まずに、お湯にポッカレモン入れて。皆がコーヒータイム、私はポッカレモン水飲んで。ちょっとしたことなんかどうでもいいから、とにかくパリに行くために1円でも多く貯めようと思ってお金を貯めて。
 
今度それを全て重要に使いたいから、ということでパリでは屋根裏に住んでたんです。でもそこの屋根裏はぼろぼろだったから、そのあと皆と友だちになって、「どこ住んでるの?」と言われたら「そこの何区の屋根裏だ」って言ったら、「えっ?安いから情報として見に行ったけど、こんな汚いとこ住めないと思って止めたっていうところにあなたは住んでるんだ」掃除すれば綺麗になるって。エレベーターないのね、階段(らせん状にジェスチャー)7階の狭いところで、私が見たフランス映画の中のパリなんですよ。とにかくそこにいて、とにかくお金を少しでも残してパリを楽しみたいから、午前中語学学校に行って、午後には毎日映画4本観たのね。4本観たのも、あるところの会員になると1日4本無料で観られる。1年間会員になると観られるの。友だちとかも最初いないから、とにかく映画を観に行く。何だか全然わからないんだけど観に行って、というのをずっとやって。
すごい映画館毎日行っているから、毎日観る仲間ができて。

 

行っての不安より、行かない不安の方が大きかった

 

鈴木  その仲間で実は映画撮ったんですよ。なんか私の毎日が面白いということになって、「あなたを主役にして撮りたい」って言って、普通の、その屋根裏で起きてぐるぐると降りて学校に行くっていう。エトランジェが、フランスに憧れている日本人の1日っていう。
 
……映画を毎日観てたかな。今でもその友だちとこっちで会いますよ。その監督は本当に監督になっている。

 

K   知らない街で最初はやっぱり怖かったとかありますか。

 

鈴木  いろんなことはあるけど、でも行かないことの方が不安だったのよね。行ったらどうなるんだろうとか、誰も知らない。どうしようとか。だけどね、いつも夜寝る前に命とパスポートがあればいいや、と思ったの。
 
だからバスに乗って間違えて一日一個もやろうと思ったことができないの。今日はあそこに行ってこれを買ってこようとか、今日は電話を繋げようとか、やらなきゃいけないことがあるじゃない?それをしようと思って調べていくんだけど、それ書いてあるのがね「ポルト」なんとかってメトロの前に行先として書いてあるんだけど全部ポルトなのよ。終着点は皆ポルト。だからポルトだけ覚えてるとこっち(そのポルトの後ろの)まで全部覚えなければならない、こっちはVから始まっておんなじなんだけど、違うのよ。なんだけどぱっと見て、あ、これだと思って乗ってみたら逆方向に行って、逆方向に行ったら、駅1つ先でまた乗り換えればいいんだけれど、またそこでどう行ったら乗り換えてまた逆方向に行けばいいのかわからない訳。入口も出口もどっちだかわからないから。そんなこと日常茶飯事で、でも行く前はバブルの頃の東京だったけど、綺麗で安全な東京にいたから、それと比べたら何もできないのよ。でも命あってパスポートあるからいいや、と思ってたね。

 

 

ココでなら何があっても生きていける@成田

 

鈴木  そう思ってると何か面白い。だからこれはね、2年間行って帰ってきて、成田に着いた時に、びっくりしたんですよ。遠くでしゃべってる人が何しゃべっているか、わかったのね。日本語だから。パリの時は目の前の人に、私はパンが買いたいの、とか一所懸命言うから通じてようやくパン買えたりするでしょ?コーヒーが飲みたいんです。とか言って何とかするでしょ。目の前の人のフランス語とは何とか通じるようにはなったんだけど、遠くの人が言ってることとかわからないんですよ、全然。自分がこうしてこうしてばっかり(辞書を)引いて。そしたら成田に着いたら、2年ぶりに遠くの人とか、すらっと通った人とか何をしゃべってたか全部聞こえて。その時に何を思ったかというと、言葉がわかったら私、日本だったら何があっても生きていけると。着いた日に。
 
別に大変じゃなかったのよ。パリにいた時は辛いなんて全然思ったことはなかったのに、着いた時に思って、それを感じたのを今思い出しました。
(生徒一同頷く)
 
だからといって辛いと思うことはやらなくていいのよ。でもやりたいことをやるのが、辛いと思ったことは一回もないんだけど、それは積み重ねということかな、私の。でもそれはこの学校にいた時に、人の魅力はいろんなところがあるなあ、という視野を広げてくれたのがこの学校だったから、この学校でのことが本当にベースになっていると思うので、良いと思うんですよね。

 

I  新しい環境に身を置くことで見えてくるものに気づくことがある……。

 

鈴木  うん、今になったらね。でもその時はそんな冷静に「新しい環境に置いてみよう」とか、そんなこと思ったんじゃなくて、パリの映像を見る度に「なんで私はこっちなの?パリに行ってないの?」っていうのが悔しくてしようがないっていうのが何回もあったから、それで行こうと思ったの。

 

一所懸命やっていると誰かが応援してくれる

 

鈴木  やりたいことをやってただけなんだけど、冷静に、このためにこう、逆算して考えたことはあまりない。鎌高に入る前まではそうだったの。受験の点数をこうするためにこうしようとか、ずっとやってた。だけど、予定外だったんだけど、鎌高に入ったことで、ビリっけつだったの、クラスで。こんなに頑張ってるのに、ああそうか。と思って。あ、だったらもっと自由に考えたいと思った。皆がすごい余裕。皆勉強だけじゃないことをやってるから皆すごいんだと見えたのがこの学校だったかな。

 

K   自分がこの学校に入ってから本当になんか色々な個性的な人がいるなあと思って、感じてて、ほらやっぱり軽音とか実際にライブをやるほどすごい人がいるんだなと思ったし、映画を作ったりする人もいれば、全国大会に行っちゃう人もいて。

 

鈴木  ここだから言ってるんじゃなくて、本当にそう思う。(生徒一同頷く)

 

S   もし自分がやりたいこととかあったら、利益とかじゃなくてやろうと思ったのですか?

 

鈴木  と、思う。一所懸命やる時は応援してくれる人はいるから、やるんじゃないのよね。でも応援してくれる人と出会えるし、だから一所懸命やってないと、本当にやりたいことをやってない自分だと、本当に会いたい人と会えない。一番やりたいことをやってますという自分になってると会いたい人とも会える。
 
で応援してもらったら応援してあげようと思うじゃない?それはこの人じゃなくてもしかして違う人かもしれない。自分もそういうことがあったなと思うとやりたいなと思う。そういうキャッチボールってやっぱり良いよね。

 

司会  でも自分はなかなかそうは出来ないかなとか思ったりする?

 

K   その人についてはきっと違うことだけど、まあ同じ人っていうか人間だから、きっと変えられる部分はあるんだろうなって。

 

I  自分の考え方とか。

 

鈴木  あった?良かった。

 
 
 
▽「鎌高座談会」記事一覧はこちら▽
「鎌高座談会」 Vol.1
「鎌高座談会」 Vol.2
「鎌高座談会」 Vol.3
「鎌高座談会」 Vol.4
「鎌高座談会」 Vol.5
「鎌高座談会」 Vol.6
「鎌高座談会」 Vol.7
「鎌高座談会」 Vol.8